なぜ私たちはEYE TELLを作ったのか —「見つめるだけで救える命がある」
- 6月11日
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見逃された予兆
42歳の父親の突然死。それは何の前触れもなく、ある日突然やってきた。その朝、私たちは会話を交わさなかった。普通の日だと思っていた。何も異変に気づけなかったのだ。
あの時、もし何か兆候をつかむ手段があれば。もし数日前に、何かおかしいことに気づけていれば。そんな悔いが、その後ずっと心に残った。
その後、今度は母がアルツハイマー型認知症を発症した。診断が遅れた。医学的には早期に発見できていれば、進行を遅延させる選択肢もあったかもしれない。なぜ早く気づけなかったのか。その後悔は、父の時よりもさらに深かった。
追い詰められた状態で、ひらめいた
その時期、私自身も燃え尽き症候群の淵に立たされていた。実は以前、起業した会社を失敗させてしまった。その立ち上がりの過程で、精神的に追い詰められていた。うつ状態の手前まで、肉体と心が悲鳴をあげていた。
その中で、ずっと考えていた。なぜ私たちは、大切な人の異変に気づけないのだろう。なぜ医療は、症状が出てからの治療に頼るしかないのか。
ある時、ひとつの可能性が浮かんだ。スマートフォンのフロントカメラ。誰もが持っている、その小さなカメラで、瞳孔を解析することができるのではないか。瞳孔は、脳や全身の状態を映す窓である。糖尿病、高血圧、心疾患、脳卒中の予兆。アルツハイマー型認知症の進行。あるいは心身の疲弊の兆候。それらが、瞳孔という生物学的マーカーに現れるのではないか。
もし30秒で、ブラウザだけで、ハードウェア不要で——この検査ができたら。
「見つめるだけで救える命がある」
EYE TELLは、そうした問い立てから生まれた。医学的な根拠に支えられながらも、その根底にあるのは、父を失った悔い、母の診断の遅れへの後悔、そして自分自身が追い詰められた経験だ。
実は1回会社を失敗したことがありまして。そこから立ち上がる中で、もし早く気づける技術があれば、と思い始めたんです。
私たちの技術は、治療を行うものではない。診断を下すものでもない。あくまで「検査・早期発見」のツールである。だからこそ、より多くの人に届く可能性がある。スマホ1台、ブラウザだけで、6つの疾患と全身バイタルの異常兆候を捉える。その情報をもとに、医療機関への受診を促す。行動を変える。治療やケアへと繋げる。
父のように突然の事態に見舞われることを、完全に防ぐことはできない。しかし、早期に気づくことで、その先の選択肢は圧倒的に増える。母の場合も、もっと早く認知機能の低下に気づけていれば、介入の幅は広かったはずだ。
予防医療への小さな一歩
現在、FDA De Novo申請を進めている。医療機器としてのエビデンスを積み上げ、より多くの医療現場や健康管理の場で活用してもらうためだ。
私たちが本当に目指しているのは、医療の民主化でもなければ、スマートフォンで誰もが医者になるということでもない。むしろその反対で、医療への適切なアクセスを広げることだ。今、医療機関を受診すべき人が、その判断を早期に得られる環境をつくることだ。
「見つめるだけで救える命がある」——これは私たちのミッションであり、同時に私自身の、取り返せない喪失への向き合い方でもある。多くの人が、父のように、母のように、そして私のように、重大な局面を迎える前に。その前に、気づく。行動する。そうした世界が来ることを、心から信じている。





